ヨーガスートラ 2章25節~2章31節





तदभाबात्संयोगाभावो हानं तद्दृशेः कैवल्यम् 2-25
タダバーバートサンヨーガーバーヴォー ハーナン 
タドドゥリショーホ カエヴァルヤム


तदभाबात्संयोगाभावो タダバーバートサンヨーガーバーヴォー
(無明が)消滅することによって結合が消滅し、

हानं ハーナン
(再生することやあらゆる苦が限りなく)滅する。


तद्दृशेः タドドゥリシェーヘ
それが、見るものの


कैवलयम् カェヴァルヤム
独存位である。

真我が宇宙や幻影の中に自分だと思うことがなくなり、元の本質に還った状態を独存位といいます。





विवेकख्यातिरविप्लवा हानोपायः 2-26
ヴィヴェーカキャーティラヴィプラヴァー ハーノーパーヤハ



अविप्लवा アヴィプラヴァー
 不動で汚れのない


विवेकख्यातिः ヴィヴェーカキャーティヒ
真我と覚を識別する智(への実践が)


हानोपायः ハーノーパーヤハ
(無明を)破壊する手段


【追記】
普段から真実のものと非真実を見分ける訓練のひとつとして、「これではない、あれでもない」という意味の「ネーティ、ネーティ」を自分に問いかけ識別する方法があります。

これはウパニシャッドの中に登場するヤージュニャ・バルキヤ仙人が妻のマイトレーイーに不滅で永遠無垢のアートマーについて説きましたが、「ネーティ ネーティ」という消去法の言葉でしか示すことができなかったといいます。

消去法ではありますが、非真実に対して「ネーティ ネーティ」と断定し打ち消すことはシンプルでありながら、積み重ねることで非真実と実在を見分ける直観能力が前進します。




तस्य सप्तधा प्रान्तभूमिः प्रज्ञा 2-27 
タスヤ サプタダー プラーンタブーミ プラジュニャー


तस्य  タスヤ
その(識別智を得た者は)

सप्तधा  サプタダー
七段階の

प्रान्तभूमिः プラーンタブーミ
最高位の

प्रज्ञा  プラジュニャー
智慧(の基盤ができあがる)
(प्रज्ञा プラジュニャー = बुद्धि ブッディ 覚)





ブッディの7段階のうち、1から4段階までを
*कार्यविमुक्ति प्रज्ञा カールヤ ヴィムクティ プラジュニャー
(行為から解放される智慧)

(1)ज्ञेयशून्य अवस्था  ジュニェヤシューンヤ アヴァスター
グナによって作られた世界は、無常で転変することを十分に知り尽くした。ほかに知るべきものがない状態。


(2)हेयशून्य अवस्था  ヘーヤシューンヤ アヴァスター
破壊すべきもの、つまり見るもの(ドラシュター/真我)と見られるもの(ドゥリシャエ/プラクリティ)の混同は滅ぼされた。ほかに、破壊すべきものがなくなった状態。


(3)प्राप्यप्राप्त अवस्था  プラーピャプラープタ アヴァスター
サマーディによって、他に得るべきものがなくなった状態。
ケヴァラ アヴァスター(केवर अवस्था )ともいいます。


(4)चिकीर्षा शून्य अवस्था チキールシャシューンヤ アヴァスター
消滅する手段である、汚れなき不動の識別智でシッディを得た段階。識別智の任務が終了。



7段階のうち5から7までを
*चित्तविमुक्तिप्रज्ञा チッタヴィムクティプラジュニャー
(チッタが役目を終え本来の姿へ戻っていくまでの智慧)

(5)चित्त की कृतार्थता チッタ キー クリタールタター
チッタは、自分の役目である経験の享受と解放を真我のために果たした。いま、チッタにとって他に目的はない段階。

(6)गुणलीनता  グナリーンター
チッタは、自らの原因体であるグナに戻り、没入していく。なぜなら、チッタは他の役目が無くなったから。リーンターは「没入、溶け込んで姿が消える」という意味です。

(7)आत्मस्थिति アートマスティティ
プルシャはグナから完全に独立し、本来の姿のまま不動(スティッティ)を保った状態。独存位。




योगाङ्गानुष्ठानादशुद्धिक्षये ज्ञानदीप्तिराविवेकख्यातेः  2-28
ヨーガーンガーヌシュターナーダシュッディクシャイェ
ジュニャーナディープティラーヴィヴェーカキャーテーヘ


योगाङ्गानुष्ठानादशुद्धिक्षये ヨーガーンガーヌシュターナーダシュッディクシャイェ

(これから説く)ヨーガの各階梯を修行することによって、心の汚れや煩悩が破壊され、
अशुद्धि  アシュッディ 心の汚れ、煩悩)


ज्ञानदीप्तिराविवेकख्यातेः 
ジュニャーナディープティラーヴィヴェーカキャーテーヘ

完全な智慧の光が輝きを増し、識別智が最高位に昇華する。
ज्ञानदीप्ति:  ジュニャーナディープティ 叡智の光)

これから説かれるヨーガの各修行によって、真実であるものとないものを見分ける訓練に磨きがかかると、その識別智の極みはアートマーの本質、ブッディ(覚、智慧)、アハンカーラ(自我意識)、インドリヤ(感覚器官)を混同することなく、ありありと違いが実感できるようになります。




यम नियमाअसन प्राणायाम प्रत्याहार धारणा ध्यान समाधयोऽष्टावङ्गानि  2-29
ヤマ ニヤマーサナ プラーナーヤーマ プラティヤーハーラ ダーラナー ディヤーナ サマーダヨーアシュターヴァンガーニ



यम ヤマ 禁戒
नियम ニヤマ 勧戒
आसान アーサナ 座法
प्राणायाम プラーナーヤーマ 調気
प्रतियहार プラティヤハーラ 制感
धारणा ダーラナー 凝念
ध्यान  ディヤーナ(デャーナ Dhyaana) 静慮
समाधि サマーディ 三昧


अष्टावङ्गानि  アシュターヴァンガーニ
上記が8つの階梯である。




अहिंसासत्यास्तेय ब्रह्मचर्यापरिग्रहाः यमाः 2-30
アヒンサーサティヤーステーヤ ブラフマチャルヤーパリグラハーハ ヤマーハ

「非暴力、正直、不盗、禁欲、不所有、これらをヤマ(禁戒)という」

初めの階梯であるヤマ(禁戒律)、ニヤマ(勧戒)で生活や精神基盤を正すことは、過去から未来にわたる複雑なカルマを精算し、サンスカーラを入れ替えるために行われます。


अहिंसा アヒンサー 不殺生、非暴力
生き物や人の命を奪ったり傷つけたり、搾取しないこと。
言葉の暴力も含みます。


सत्य  サティヤ 正直 真実を話す習慣
ヨーガ、瞑想は達成のために高度な集中力が求められます。サティヤによって意思と言葉が分散しないようにします。


अस्तेय アステーヤ 不盗
物品、金銭のほか、他者の時間や労力を故意に奪わないこと。


ब्रह्मचर्य  ブラフマチャルヤ 梵行 禁欲
禁欲。とくに性欲をさします。ヨーガでエネルギーを蓄えても性欲でエネルギーを漏らし続けると、記憶力や理解力の低下、霊性が高まらないと言われます。ヨーガの修習によって初期は腹部にエネルギーが開発されていきますが、性欲に関する思考だけでも下にエネルギーが流れていきます。

また、食欲が強い人の場合、腹部に蓄えたエネルギーを消化で使い果たしてしまいます。腹部でエネルギーを備蓄して脳天へ昇華させていくためにエネルギーを蓄えておく必要があります。


अपरिग्रह アパリグラハ 不所有
自分の利益のために金銭、土地、物資などの財を占有・収集することを「パリグラハ」といいます。人のものを自分のものにしたいという欲求も「パリグラハ」からくるものです。

ジャイアンが放ったセリフ「お前のものは俺のもの。俺のものは俺のもの」はあまりにも有名です。

これをひねって「お前のものはお前のもの。俺のものはお前のもの」と気前良く、気持ちだけでも物に執着しない姿勢を実践できれば、それは「アパリグラハ」になります。「ア」は打消しの意で、「不所有」という意味です。

決して何も所有してはいけないわけではなく、所有量でアパリグラハを実践しているかを知る目安になるわけでもありません。これは心の問題で、「私のもの」という意識が強すぎると重い物質界に縛られることになります。全てのものは天からの借り物で、自分の判断より高い次元で、手元に置いておくべきものと捨離するものは自然と調整されています。




जातिदेशकालसमयानवच्छिन्नाः सार्वभौमामहाव्रतम् 2-31
ジャーティデーシャカーラサマヤーナヴァッチンナーハ
サルヴァバォーマー マハーヴラタム


जातिदेशकालसमयानवच्छिन्नाः
ジャーティデーシャカーラサマヤーナヴァッチンナーハ
「(上記のヤマについて)動物、場所、時、目的による区分がなく」

जाति  ジャーティ 動物、生き物
देश  デーシャ 場所
काल  カーラ 時
समय  サマヤ 機会


सार्वभौमामहाव्रतम् サルヴァバォーマー マハーヴラタム
「どんな心身状態であっても遂行され遵守されるときは大誓戒という。」



たとえば、魚は食べるけれど牛や豚は食べない場合、動物に基づく区分をしているので「ジャーティ アヴァッチンナ アヒンサー」といいます。「アヴァッチンナ」とは「境界」や「区分」という意味です。

また、巡礼している聖地では肉は一切食べないというルールを定めたとします。それは場所によってルールが変わるので「デーシャ アヴァッチンナ アヒンサー」といいます。また、新月や満月には動物肉を食べないというルールを設けたとき、それを時という区分でわけるので「カーラ アヴァッチンナ アヒンサー」といいます。ほか、結婚式では肉を食べてもよいというルールを設けた場合、機会や行事による区分けをしているので「サマヤ アヴァッチンナ アヒンサー」 といいます。

これはアヒンサーの他にもサティヤ、アステーヤ、ブラフマチャリヤ、アパリグラハについても動物、時、場所、機会によってルールを独自で設けて実践する場合もあります。ルールがなくテキトーにその時その時の気分で行動する場合は、それはヤマの実践とは言えませんが、ルールを決めたらそれを守り抜く姿勢が大切です。

動物、時、場所、機会によってルールを設けることがなく、常にアヒンサー、サティヤ、アステーヤ、ブラフマチャリヤ、アパリグラハが貫徹されるとき、これを「マハーヴラタ」といいます。महाव्रतम् マハーヴラタム 大誓戒)